この記事の要点

  • コバルトやリチウムの採掘には、児童労働、水資源への負荷、供給集中といった実在する問題があります。
  • 特にコバルトは世界の産出の7割前後がコンゴ民主共和国に集中し、手掘り鉱山の労働環境が国際的に問題視されています。
  • LFPなどコバルトを使わない電池、リサイクル、責任ある調達を広げることが、EV普及と同時に必要です。

EVは走行中に排気ガスを出さず、使い方によってCO2も大きく減らせます。一方で、電池の材料をどこから、どのように得ているかには、見過ごせない問題があります。

結論から言えば、リチウムやコバルトの採掘に環境・人権の問題があるのは事実です。だからこそ、EVを「問題のない乗り物」として語るのではなく、問題を減らす技術と調達の改善まで含めて見る必要があります。

コバルトは供給が一国に集中している

もっとも深刻に語られるのが、コバルトの問題です。コバルトは三元系リチウムイオン電池の材料として使われてきた金属で、世界の産出の多くがコンゴ民主共和国に集中しています。

世界のコバルト産出のうちコンゴ民主共和国が70%、その他の国が30%を占めることを示した横棒グラフ
図1:世界のコバルト産出に占める割合の目安。供給がコンゴ民主共和国に大きく偏ることが、人権リスクと調達リスクの背景になります。

供給が一国に偏ると、その国の労働環境や政治・社会の不安定さが、電池の供給網に直結します。特に手掘りの小規模鉱山では、安全対策や労働管理が十分でないケースがあり、児童労働や危険労働のリスクが高くなります。

児童労働は現実の問題

人権団体のAmnesty Internationalは、コンゴ民主共和国のコバルト採掘で子どもが危険な作業に関わっている実態を報告しています。米国労働省も、リチウムイオン電池などの供給網に児童労働リスクがあることを示しています。

問題を難しくしているのは、手掘り鉱山で採られた鉱石が、取引や精錬の過程で他の鉱石と混ざり、完成した電池からは由来を追いにくくなる点です。単に「メーカーが使わない」と言うだけでは足りず、鉱山から電池までの追跡が必要になります。

リチウムには水の問題がある

リチウムにも別の課題があります。南米の塩湖で行われるリチウム採掘では、地下の塩水をくみ上げ、蒸発池で濃縮して取り出す方法が広く使われています。

この方法は、水資源への影響が論点になります。乾燥した地域で大量の塩水を蒸発させるため、地下水や湿地、生態系、地域の生活用水との関係を慎重に見なければなりません。新しい直接リチウム抽出の研究も進んでいますが、環境負荷をどう抑えるかはまだ重要な課題です。

対策はコバルトフリー化から進む

対策のひとつは、問題の大きい材料を使わない電池へ移ることです。LFP(リン酸鉄リチウム)電池は、コバルトもニッケルも使いません。鉄とリンを主な材料にするため、資源面でも価格面でも採用しやすい電池です。

すでに普及価格帯のEVではLFPの採用が広がっています。Teslaも一時点で新車の約半分にLFP電池を使っていると説明しており、コバルトを前提にしないEVは現実の選択肢になっています。

リサイクルと責任ある調達も必要

もうひとつの対策は、採った資源を使い捨てにしないことです。EVバッテリーは、使い終わったあとに蓄電池として再利用したり、最後にリチウム、コバルト、ニッケルなどを回収したりできます。

リサイクルが広がれば、新しく採掘する量を減らせます。あわせて、メーカーが鉱山や精錬所までさかのぼって調達先を確認し、児童労働や環境破壊に関わる材料を避ける責任ある調達も必要です。

石油にも同じ視点が必要

資源の採掘にともなう環境・人権問題は、EVだけの話ではありません。ガソリン車が使う石油にも、採掘、輸送、流出事故、産油地域の政治的リスクといった問題があります。

大きな違いは、石油は燃やすとなくなり、走るたびに新たな採掘が必要になることです。一方、電池材料は一度採れば、回収して再び使える可能性があります。EVの材料問題を軽く見るべきではありませんが、ガソリン車との比較では、この違いも重要です。

「EVはだめ」でも「問題ない」でもない

採掘問題があるからEVはだめ、という結論は単純すぎます。逆に、EVは環境に良いから採掘問題は気にしなくてよい、という見方も誤りです。

現実的な答えは、問題を直視しながら、コバルトを使わない電池、材料使用量の削減、リサイクル、責任ある調達を進めることです。EVを選ぶ側も、電池の種類やメーカーの調達方針に関心を持つことで、改善を後押しできます。

出典と前提

図表はWorld Bankのコンゴ民主共和国コバルト市場分析などをもとに、世界のコバルト産出がコンゴ民主共和国へ大きく集中している構図を簡略化したものです。実際の割合は年次や統計により変動します。

児童労働の実態はAmnesty Internationalと米国労働省の資料、LFP電池の採用状況はTesla関連報道、リチウム塩水抽出の環境影響はNature Reviews Earth & Environmentなどを参考にしています。

資料の対象地域・車種・時点に注意してご確認ください。

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